狩人の血

2018.3.7|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 KJWORKS

 

『邂逅の森』   熊谷達也 著   文春文庫

 

 

 

「本を広げたかたちは、鳥のかたち。」

ご愛読、ありがとうございます。暮らしのプロデューサー、山口です。

 

 

 

直木賞、山本周五郎賞をダブル受賞した感動巨編、徹夜必至という謳い文句に惹かれて入手しました。そしてその書評にあったとおり、徹夜こそしませんでしたがグイグイと物語世界へと引きずり込まれ、文庫で530頁を一気に読了。

 

 

 

時代は大正、日清・日露戦争から第一次世界大戦へ向かう日本。その東北地方に生きる伝統の狩人、マタギの男の人生の物語です。全10章中最初の3章はその狩猟民たるマタギの生活と猟を叙述して、その表現が実に素晴らしいのです。

 

 

 

熊やカモシカといった獲物を探して冬山を移動し、洞窟などで夜を明かす。獲物を見つけ、追い込み、そして仕留める。その文章がもつ強烈なリアリティに、まさに圧倒されます。著者による入念な取材と表現力が生むその迫力たるや。

 

 

 

そしてそこに描かれるのは、言わば「山の一部たろうとする人間たち」の姿です。独特な山の神への信仰と慣習をもつマタギの生き方には様々な禁忌や守るべき掟があり、それに従うことで獲物という山の神からの加護を得ようとする者。

 

 

 

あまりネタバレはいけませんが、そんなマタギ衆であった主人公は、さる事情でマタギをやめて鉱山で働くことになります。そしてまた、山へと帰っていく。それらの背景には、彼自身の事情に加えて日本という国の変化があったのでした。

 

 

 

大正から昭和初期にかけて、戦争による金属需要と鉱山の隆盛、そしてその終結による不況と、日本の経済は大きく揺れ動いていたのですね。ロシアとの戦争にあたって防寒用の毛皮が高騰するなど、狩猟民への影響も大きかったようです。

 

 

 

本作にはその時代背景もしっかりと描かれ、それが主人公の人生にさらにリアリティを加えます。鉱山で暮らし、その後また山へと帰った彼の生き方には、当然そうした経済原理がそうさせたという部分も大きかったし、生きるためだった。

 

 

 

しかし私としては、やはり彼の血がそうさせたという面も大きかったと感じました。山の神に抱かれて生きる、そのヒリヒリとした狩猟民の暮らしは彼の血をそう染めてしまっており、他の生き方で満たされるようなものではなかった、と。

 

 

 

本書には男と女の激しい愛も描かれ、そしてその描写にもまた、大自然に同化して生きるマタギ衆らしさが漲ります。都会に暮らす人間が忘却し、抑圧してしまった何かが鎌首をもたげる、そんな力を体内に感じる一冊だと言えるでしょう。