いつからある・いつからない

2015.4.7|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 山口敏広

2015-04-07 08.12.59

『考証要集  秘伝!NHK時代考証資料』   大森洋平 著   文春文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

また、面白い本と出会いました。著者はNHKのシニアディレクターで、大河ドラマなどの時代考証を担当してきた人物です。本書は元々後進に向けての社内資料だったのが、出版されたもののようです。

 

著者いわく、「ドラマの時代考証とは、番組で取り上げられる史実・時代背景・美術・小道具等をチェックして、なるべく史的に正しい形にしていく作業です。」これ、簡単に言いますが、実はとんでもなく広範な知識を必要とするものですよね。

 

歴史とひとことで言っても、古代、上代、中世、近世、近代、それぞれに違っていますから、これは非常に難しいことですね。江戸時代ならOKだが、戦国時代にはまだない、というように。

 

もちろん、それぞれの時代、それぞれの分野の専門家、研究者たちと共に作業をおこなうことが前提。そして局側の担当者の作業は、その専門分野の間をつないでいくこと。著者はこれを「時代考証のすき間産業化」と呼びます。

 

著者がそんな専門家たちと「考証会議」を通じて築き上げてきた、コトやモノやコトバたちの「歴史的に正しい使われ方」の例が、本書ではまるで辞書のように50音順に並んでいます。そのどれもが非常に面白く、ためになる。

 

それは、日本語が好き、古いものが好きという私にはまさに素晴らしい智慧の宝庫で、ひとつひとつワクワクしながら貪り読んだ次第。眼から鱗のもの、間違って覚えていたものも数知れず、でした。

 

その中からほんの一例を。皆さんは、「立ち上げる」という言葉と「マジか?」という言い方、どちらが歴史的に新しい言葉と思われますか。なんとなく、立ち上げるというのは昔からある言葉、マジは若者用語で新しい言葉、というイメージがありませんか?

 

これは全くの逆なのだとか。「立ち上げる」はパソコン用語から使われるようになった、たかだか30年ほどの歴史しかない言葉。それに比べると「マジか?」というような言い方は、江戸時代に既にあった。18世紀末にはかなり流行った言い方なのだそうですよ。

 

モノ、言葉、所作、ファッション、慣習、時代考証はまさにこの世界の全てのものを対象とする、「いつからある・いつからない」を把握しておくこと。文献を渉猟し、そして例えば戦時中のことは、それを知る先達にも数多くインタビューし、「生きた証言」を収集する。

 

本書は辞書の体をとりつつも、その知識だけでなく、それを積み重ねていくための著者のプロ魂もが、ひしひしと伝わってくる。そんな熱い一冊だと感じました。