他人を生きる旅

2014.4.23|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 山口敏広

2014-04-23 10.37.03

『俳優のノート』   山崎努 著   文春文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

「日記文学」というジャンルがあります。自分が興味のある人が、そんなジャンルの著書をもっていると知ったら、これは読みたくなりますよね。この本は、私の好きな俳優さん、山崎努氏による日記です。

 

日記と言っても、ただ日々の生活を描く、というものではありません。ここには大きなテーマがあり、それについての日々の「闘い」が、そしてそこへ向けての著者の思索や苦悩が文字となって表現されているんです。

 

そのテーマとは、戯曲『リア王』の上演です。シェイクスピアによる傑作、その主役であるリア王を演じることになった著者の日記が、「準備」「稽古」「公演」の三部に分けて掲載されています。

 

私は家づくりや、それに関する職業の方々とは多くのご縁がありますが、「演技者」の方には全く知り合いがありません。日頃から、いわゆる俳優、女優の方々というのは、どのような思考や技術をもってその「志事」をしているのか、興味はあれどもあまり想像がつかない、そんな感じでした。

 

そんな興味から本書を入手し、読んでみたのですが、いや、私の貧困な想像力をはるかに超えたそのプロフェッショナルの姿に、ただ驚き、感服です。まるで憑かれたように、読むのを止めることができません。

 

「演じる」ということについての、何という深い想い。己の役柄のみならず、その戯曲全体についての、何という深い探求でしょうか。単に「役づくり」という言葉で済ませられるものではなく、まさに「凄絶」と形容したい内容なのです。

 

リア王という激しい生き方の主人公、そこに「滑りこむ」。あるいはリアに体を貸す。著者はそう表現します。本書は日記の形をつかった、氏の演劇論にもなっているんですね。ドラマ、映画、舞台、それぞれの違いについても描かれ、日記の随所に、その痛烈な批評も。

 

リアはもちろん、他の登場人物について、そしてその人間関係について、シェイクスピアの脚本の行間を読み、自分なりの戯曲内の世界を隅々までつくり上げること。本書には、その思索の旅が描かれていると言っていいでしょう。

 

そして、著者は最後に書きます。「リアとの旅はスリリングだった」と。

 

私は演劇をほとんど観たことがありませんが、このような膨大な探求の旅をそのうちに詰め込んだ戯曲なら、それは観ておくべきだったと感じます。おそらく本書を読まれたら、誰もがそう思うに違いありません。