回想のなかの家

2014.12.20|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 山口敏広

2014-12-20 15.21.01

『父の縁側、私の書斎』   檀ふみ 著   新潮文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

檀一雄関係の本を何冊か続けて読み、その続きで娘である檀ふみさんのこのエッセイも合わせて読みました。でも、ここに書いていなかったのを思い出したので、今日はそれを。

 

この本は、「家」にまつわるエッセイをまとめたもの。その点も気になって入手したのです。何冊か読んできた檀一雄の家とはどんなものだったのか、そのタイトルからしてきっとそれが書いてあるだろうと。

 

ほぼ予想は的中し、著者の生まれた石神井の家のこと、そして檀一雄が晩年を暮らした能古島の家のこと、そしてそこでの暮らしの想い出が綴られていました。著者自身による間取り図も載っていましたよ。

 

「火宅の人」檀一雄は、それと同時に「濫費の大王」でもあったようで、ずいぶんと金には無頓着だったようです。その父親が衝動買いのように入手した石神井の家で、著者はずっと暮らしているんですね。

 

本書にはその辺りの事情、そしてその家での檀一雄にもふれられていますが、主として語られるのは、その家を著者が建て替えた今のお住まいのこと。そして別荘としてつくられた「山の家」のことでした。

 

家そのものの「うまく出来ていないところ」や、そこでの暮らしの中の失敗談なども多く語られ、著者一流のテンポの良いコミカルな調子に楽しく読み進めていくのですが、その中でふと考えさせられるものがある。

 

家は変わっていても、その場所でずっと過ごしてきた著者の暮らしは、やはり育った家での父母との生活のあり方から、否応なく影響を受けているようです。それは誰しもそうでしょうし、あたり前のことなのかもしれません。

 

しかし、本書のように家や暮らしに関してエッセイという形で綴られたものを通して読むと、別々のことをたくさん書いているようでいて、その隠されたテーマのようなものがより鮮やかに浮かび上がってくるように感じられるのです。

 

回想の中の父、檀一雄と、その普請道楽による家の移り変わり、そこでの暮らしの記憶。かなり珍しい境遇といえる著者の人生の中で、やはりその父から受け継いでいるものは大きい。そんなことを感じられる一冊でした。

 

文庫版の「解説」を、家づくりを得意とする建築家、中村好文氏が書いておられるのも魅力。檀ふみの魅力、本書の魅力をうまく描いて、楽しませてもらいました。

 

最後に、本書の裏表紙にある著者の言葉を。読むとこの意味がよくわかりますよ。

「現在暮らす家の煩雑な悩みは尽きることがない。けれど私の中には『生活すること』を愛した父の魂が息づき始めている。」