夫婦の肖像

2014.10.1|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 山口敏広

 

2014-10-01 13.52.33

『檀』   沢木耕太郎 著   新潮文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

今はまっている檀一雄シリーズ、三冊目です。著者は沢木耕太郎、ノンフィクション作家として多くのファンをもつ方ですね。私も昔、『深夜特急』を夢中になって読んだものでした。

 

そのノンフィクションの旗手が描くこの作品は、しかし、かなり変わった作風の一冊と言えるでしょう。文中に「私」として登場するのは、著者ではありません。檀一雄夫人、ヨソ子さんです。

 

ノンフィクションの作品というのは、主に「一人称」で語られるものだと思いますが、本作はそうではない。ヨソ子夫人への長い時間をかけたインタビューを、夫人の視点から再構成したものなのです。

 

著者の一人称でも、著者から見た夫人という三人称でもなく、ヨソ子夫人の独り語りのような文体で進んでいく。しかし、だからこそ、そこに炙り出すように浮かび上がる檀一雄の姿は、非常に鮮明です。

 

檀一雄作『火宅の人』は、名前こそ変えてあるものの、その不倫劇を描いた私小説でした。本作に綴られているのは、ヨソ子夫人の心情。その渦中の本人と共にあった頃の、檀一雄亡き後に初めて『火宅の人』を読んだ時の、そして改めて檀一雄からの手紙を読み返した時の。

 

夫人の一人称で始まる文章は、最後は檀一雄への語りかけのように終わります。そして書き手である著者の感覚もそこには当然交じってくる。長部日出雄による解説でそれは「四人称」とされていました。

 

本書を読んで、檀一雄の人生について思うことは、人それぞれでしょう。しかし私は、この作品の独特の文体によってさらに、檀一雄ではなく檀夫妻の人生、そして心の機微が強く伝わってくることに感動を覚えたのです。

 

インタビューを再構成し、夫婦の肖像をそこに描き出すことで檀一雄を語る。『檀』というタイトルに込めた意味も含めて、久しぶりに沢木耕太郎の手腕を存分に味わえた気がした一冊です。