早すぎた改革者

2015.4.28|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 山口敏広

2015-04-28 12.26.49

『魚の棲む城』   平岩弓枝 著   新潮文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

平岩弓枝の時代小説、第二弾です。先の『獅子の座』の次に春日局の物語も読んでいますので、これで三冊目。本書は田沼意次(たぬまおきつぐ)の物語です。

 

田沼意次は、18世紀の人物。といっても、私も歴史の授業で習った程度で、あまりわかっていません。享保の改革と寛政の改革の間の「田沼時代」と憶えたなあ。「賄賂政治」というのがキーワードで、この人物についてあまり良いイメージをもっていませんでした。

 

ところが本書を読んで驚きました。まさに幕政改革を推進した大政治家ではありませんか。しかも、男も女も惚れ込むような、男っぷりの良い人物として描かれているんです。

 

読了後、それまでのイメージとあまりに違うので調べてみましたが、確かにこの人物への評価は戦前までは非常に悪かったようですが、その後資料が詳細にわかっていくとともに、好転しているようですね。

 

米に頼りっぱなしだった幕府の財政を「重商主義政策」によって、商いからの利益で賄っていこうとした。株仲間、銅座などの専売制、鉱山開発、蝦夷地の開発、外国との貿易拡大などなど、意次の主導で成果を出したものは多く、「近代日本の先駆者」とも呼ばれているとか。

 

本書では、小姓から老中へと登りつめた彼の一生を、その近代的なものの考え方、実行力の面で描いていきつつ、一方で彼の幼なじみであった人物との人間同士の関係、その変遷を描いていきます。

 

その幼なじみとの人間関係の方はどこまで史実なのかわかりませんが、それを物語の別の面として描いていくことで、そこに「好漢・田沼意次」の姿が鮮やかに立ち現れてくるよう。そして読者をぐいぐいとその世界へと惹き込んでいきます。

 

私もその意次の快男児ぶりに、物語内の登場人物たちと同様に魅了されてしまい、600ページを息つく間もなく読みきってしまいました。ヒーローの誕生、そして夢と快挙、苦悩と挫折、友情と愛情、どれもが読むものの胸に迫るのです。

 

読み終えて、昔習った歌を思い出しました。「白河の清きに魚も住みかねて もとの濁りの田沼恋しき」というやつです。「白河」とは、次の寛政の改革の主人公、白河藩主・松平定信。「清き」と「濁り」も、本書を読んだ後では含蓄をもって響きますね。

 

遠州相良藩の初代藩主として、意次はその海の近くに城を築きました。タイトル「魚の棲む城」とは、意次が願った国内外の交易のための船、海に生きる者が集う城という意味と、上記の歌に込められた意味を共に表す、深い言葉だと感じました。

 

生き急ぐように大きな政策変更をかたちにした田沼意次。その「早すぎた改革者」の姿と、松平定信へと時代が変わった事情、江戸経済のあり方も学べる、よき一冊です。