暮らしくらべて生きる

2014.8.27|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 山口敏広

2014-08-27 12.23.23

 

『フルサトをつくる』   伊藤洋志・pha(ファ) 共著   東京書籍

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

フルサト、という言い方に何か惹かれるものを感じて入手した一冊です。いわゆる田舎への移住についての本を想像していましたが、読んでみると、イメージしていたものとはだいぶ違っていました。

 

著者いわく、「本書はおおざっぱに言うと21世紀の多拠点居住についての考察である。」とのこと。こうも書いてあります。「都会か田舎かという二者択一を超える住まい方を考えたい」と。

 

都会に住み働いていた人がリタイアして田舎に移住する、という話ではなく、都会にも住んで活動しつつ、暮らし全体の中でのある程度のパーセンテージを、また別の場所で暮らす、という話。

 

それには都会と対照的な田舎がよく、その二拠点間のギャップこそが人を活性化する。そんな主張が本書のそこここに見られますが、大事なのは、これが単なる絵空事ではなく、共著者二人の実際の活動をふまえた論考だということ。

 

東京とは別に、和歌山の熊野にもうひとつの「フルサト」をつくってそこでも暮らしている著者の経験をふまえた話であり、「そんなこと実際は無理」と一笑に付すような、底の浅いものではありません。

 

内容は二人が交代で書いているのですが、非常に具体的なもの。「フルサトの見つけ方」から始まり、「『住む』をつくる」、「『つながり』をつくる」、「『仕事』をつくる」、「『文化』をつくる」と続いていきます。

 

中でも私が面白かったのは、「仕事」をつくる、の項。いわゆる「ビジネス」は都会の経済原理の中でおこなうものであって、フルサトでおこなうべきはそうではなく、「ナリワイ」だ、と語られています。

 

ここでナリワイ、という言葉が表しているものは、自給自足の延長線上にあって、他人に供給できるものを供給する、といったニュアンスの仕事ですね。

 

なるほど、自分に与えられた時間のうち、おそらくは比率として小さめになるであろう田舎の方の拠点では、フルタイムビジネスなどは望むべくもありません。それを前提とした「ゆるい」仕事のあり方でなければ、そもそも成立しませんから。

 

正直に告白いたしますと、多拠点居住についての本だとわかって、最初は「そんなんほんまに出来るんかいな」と半信半疑、というかちょっと斜に構えて読み始めたのでした。

 

でも、ゆるい感じで内容が進んでいくように見えて、結構おっと思うようなこと、目から鱗が落ちるような記述があちこちに散りばめられています。徐々に徐々に、中へ引きこまれていくような感覚を味わった次第。

 

内容を全て語ることはとても出来ませんが、暮らしのあり方もひとつではない、単なる旅行よりも濃く、違う場所でも少し暮らしてみることで初めて見えるものを味わってみては、という本なんです。

 

NETが発達し、しかも「シェア」という新しい所有の仕方が市民権を得てきたこの21世紀にこそ、時間やコストのハードルを超えて、多拠点居住が現実味を帯びてきている、と。

 

色んなところで暮らしくらべつつ、生きてみる。すぐには無理でも、そんなことを頭のどこかで目指しつつ、自分なりの「暮らしくらべ」を模索することは、なんだかとても楽しそうではありませんか。