架空の価値

2015.2.7|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 山口敏広

2015-02-07 13.49.22

『迷宮の美術史 名画贋作』   岡部昌幸 監修   青春出版社

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

先日、名画の贋作をテーマにしたテレビ番組がやっていて、ある方がFacebookにそのことを投稿されていました。それを見てから改めて芸術品の真贋ということに興味が湧き、その手の本を三冊入手。その一冊目がこの本です。

 

皆さんはファン・メーヘレンという画家をご存知でしょうか?その人物こそ先のテレビ番組でのノンフィクションの主人公です。17世紀オランダの巨匠フェルメールの贋作を描いた人物で、「贋作者の王」とも呼ばれているとか。

 

著者は大学で教鞭を執る美術史家。本書はその著者が、メーヘレンを含めたいくつかの著名な贋作事件を紹介し、ゴッホ、ロダン、ピカソといった「狙われ続ける巨匠」の贋作事情や、現代の真贋判定、贋作流通の実情などを語った一冊です。

 

絵画や陶芸、工藝などの美術品において、その売買金額での価値は、大きく「誰の作か」に依存しています。そこが一般的な「商品」と違うところであり、贋作とは、あるはずのないところに架空の価値をつくり出す行為だと言えるでしょう。

 

本書にはメーヘレンの他に、トム・キーディング(表紙の白髭の人物)という贋作者が登場したり、ルグロ事件、ヴァッカー事件、春峯庵事件といった、画商がつくりあげた贋作事件なども紹介されています。

 

画商が贋作事件をつくる時、それは金銭的な架空の価値をつくることが目的となります。しかし、贋作者自身は必ずしもそうではないのですね。私が本書で非常に興味深かったのは、ひとつにはその点です。

 

そしてもうひとつ興味深いことは、贋作をつくるテクニックです。単に巨匠の絵に似ているだけでは駄目で、いわゆる「時代考証」が必要なんですね。巨匠が描いた時代の道具、画材、製作法をなぞり、さらに「古び」の技法も駆使して、贋作はつくられていく。

 

あまりそのような悪事を楽しんではいけないのですが、しかしその飽くなき追求は読んでいて面白いし、「本物と鑑定される」レベルというのがどういうものなのか、その辺りの文章も面白く読めました。

 

最後に、本書の末尾の文章を少しだけご紹介します。いや、なんと怖いことでしょう。芸術は恐ろしいもの、恐ろしいがゆえに人を惹きつけてやまないのでしょうね。そんな少し怖い魅力が伝わる一冊です。

 

「実際のところ、美術館の収蔵庫には、数多の贋作が行くところもなく眠っている。いや、それどころか、れっきとした真作として壁に展示されているものの中にも、その真贋が怪しい作品が時々見られることもあるのが、実情なのだ。」