江戸のプロデューサー

2014.3.12|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 山口敏広

2014-03-12 14.09.44

 

『蔦屋重三郎 -江戸芸術の演出者-』  松木寛 著   講談社学術文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

皆さん、「TSUTAYA」はよく知っておられると思いますが、では江戸の版元「蔦屋」はご存知でしょうか?版元とは出版社のこと。本書は、江戸中期出版界の寵児とも言うべき、その蔦屋の主、蔦屋重三郎の評伝です。

 

表紙に使われている絵には、きっと見覚えがおありだと思います。東洲斎写楽による浮世絵「大谷鬼次の奴江戸兵衛」ですね。この「大首絵」と呼ばれる人物大写しの絵が、写楽の真骨頂と言えるでしょう。

 

いったいその正体は誰なのか、長く謎の絵師として話題を呼んでいた東洲斎写楽ですが、この写楽という絵師を世に出した人こそ、他ならぬ蔦屋重三郎。もちろん彼が版元として、この作品を出版しました。

 

版元とは、今で言う出版社でありつつ、しかもプロデューサーの役割を担っているんですね。サブタイトルに「江戸芸術の演出者」とある通り、蔦屋重三郎は、新しい才能を見出し、その人材を自らの出版物にどしどし登用して、出版界に新風を、そして潮流を巻き起こした人物なんです。

 

役者絵の写楽だけではありません。美人画の喜多川歌麿も重三郎プロデュース、文の書き手の方では山東京伝、滝沢馬琴、十返舎一九などなど。みな、一流と呼ばれる前に蔦屋の黄表紙や狂歌本などで、その若い才能を開花させた芸術家たちです。

 

本書は、蔦屋の創業から始まり、当時の出版の中心街である通油町への進出、そして時代を追って、様々な才能との出会いと、それを時代の波に乗せるための重三郎の活躍が描かれていきます。その緻密かつ大胆不敵な戦略と実行力に、私もやや興奮気味で読み進めた次第。

 

第五章「役者絵への野望 -東洲斎写楽-」では、写楽のたった10ヶ月という活躍期間の中で、どのように作品が変化したか、そしてそれは何故だったのかが、重三郎の戦略と絡めて描かれ、写楽の謎に一石を投じたものともなっています。

 

詳細は述べませんが、寛政の改革の「生贄」として蔦屋の事業に大きな障害が生まれ、そしてそこから再起を推し進めながらも、重三郎は病に倒れてその生涯を閉じます。当時の出版界事情を通じて、江戸中期の「お上と民」の関係についても伺い知ることができました。

 

蔦屋重三郎、通称「蔦重」はきっと、次の時代を読むことに長けた人物だったのでしょうね。「民の望み」をビジョンとして見る力をもち、それを形にできる才能を見出し、組み合わせることができる人物。

 

多くの輝く才能たちと過ごしたその生涯とは、さぞやエキサイティングなものだったろうなあ。本書を読了して、つくづく思います。その熱を少し分けてもらえる、そんな一冊ですね。