炎と哀しみのひと

2015.7.8|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 山口敏広

2015-07-08 17.16.31

『千姫様』   平岩弓枝 著    角川文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

先日どっさり買った平岩弓枝の著書群、まずはこの一冊です。徳川家康の孫にして、豊臣秀頼の妻となった、千姫の物語。戦国から徳川幕府へ、激動の時代を生きた女性ですね。

 

本書はしかし、彼女の幼少時代からは始まりません。いきなり最初のシーンが、落城寸前の大坂城。そこから生き延びた千姫の、第二の人生を描いた物語なんです。

 

私は、豊臣が滅びてからの千姫の人生はまったく知りませんでした。本書の解説を読んで知りましたが、世に俗説はびこり、虚像が多く流布された人物なのだとか。「自由奔放で権力を傘にきた淫乱な女」だと、まことしやかに語られていたのだそうです。

 

しかし、本書で平岩弓枝が迫ったその人物像は、ごくあたり前に生きようとした、女の姿でした。政略結婚から解放され、本当の恋をし、家族に囲まれた生活を望む、一人の女性でした。

 

それは人間であれば誰しも手に入れようとする、幸せの姿です。でも、徳川宗家という出自と、豊臣対徳川という時代の流れに翻弄された彼女には、その後の人生においてもやはり一般の民とは次元の違う、大きな振幅で揺れる日々が待っていたのです。

 

相思相愛で結ばれた夫、そしてその播磨国での幸せの絶頂と、その後訪れた不幸と涙の日々。情熱と悲哀。本書はその数奇な運命を、史実と、そして小説ならではのフィクションも絡めながら、まるで川が緩急に流れるように描いていきます。

 

情熱の火が消えてしまっても、高貴な姫君は、死ぬことも許されない。多くの悲しい涙を経て、彼女に出来ることは、亡き人々の菩提を弔いながら生きることだけでした。その瞳に、深い哀切を湛えて。

 

彼女の人生の後半は、そのように淡々と過ぎたもののようです。しかしそこに小説としてのドラマを上手に織り交ぜ、読者を飽きさせない工夫も感じられます。その自然さこそが作者の手腕なのでしょう。

 

運命の人形であった姫が、己のもつ心の炎に飛び込んで燃え上がり、そしてその焼け跡に生えた野の花を愛でるように生きる。その時々の千姫の様々な感情が、平岩流の美しい日本語で胸に迫ってくる。そんな、とても読み応えのある一冊でした。