美の科学者

2015.2.27|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 山口敏広

2015-02-24 14.13.30

『修復家だけが知る名画の真実』   吉村絵美留 著   青春出版社

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

名画の贋作、というテーマから選んだ、三冊目。今度は贋作者ではなく、修復家という職業からみた絵画の世界です。おそらく修復家ほど目利きが求められる志事はないのでは、という推測から入手を。

 

著者の珍しい名は本名で、「えみいる」と読むそうです。エミール・ゾラからの父君による命名だそうですが、本書の冒頭ではこう述べています。「絵画修復家の仕事をひと言で言い表すなら、『絵を美しく留める』ということになるかもしれません。」

 

まさに、この志事に就く運命をもった方なのでしょう。私もこの絵画修復家という職業とはどういうものか全く理解がありませんでしたが、本書に述べられたその志事とは、まさに驚くべき技巧と感性を要するものでした。

 

修復とは、基本的に「復元」です。そのために必要なことは、まずは綿密を極める「調査」です。そしてまたその絵が描かれた時点を「時代考証」することも重要。キャンバスから始まって、画材の全てを当時のままに知ることが求められるんですね。

 

その上で、絵のタッチなどの画家の個性を把握し、さらに修復そのものに関する技法の習得があり、さらに感性としての審美眼も欠かせません。読みながらその凄さに圧倒されてしまいました。これこそまさに「美の匠」ではありませんか。

 

本書には、その著者が今まで経験したさまざまなエピソードを紹介しながら、そこに使われた技術や技法について述べられています。そんな中に、やはり贋作に関する話も登場していました。

 

真作であっても、絵の下に別の絵があったり、キャンバスの裏側に別の絵があったり、サインが二つあったり。そんな「絵画に秘められた物語」を読み解き、復元という解決をもたらしていく手腕は、まるで探偵のようにも思われます。

 

しかし著者によれば、その本質は「科学者的な視点」だと言います。確かに修復技術の点では非常に多様な接着剤や合成樹脂を、既存の画材との相性を判断しながら使うわけですから、その科学的分析こそ、探偵のような推測の根本をなすのですね。

 

素晴らしい名画をよみがえらせる中で、それを一旦「物質」と「画家」にまで還元して再構成する「美の科学者」。その胸躍るエピソードの数々、絵が好きな方には是非ご一読をおすすめいたします。