表出とバックグラウンド
『アウトプットのスイッチ』 水野学 著 朝日新聞出版
ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。
私はこの水野学さんのことを知りませんでしたが、ある方のFacebook上の投稿から興味をもち、本書を入手しました。読んで知りましたが、あの「くまモン」を創りだしたひと、なのです。
本書は、商品づくりを中心として、「アウトプット」についての考え方と、具体的な技術について書かれたものです。アウトプットとは、著者の言葉で言うなら、「最終的に、表出されたもの」のことです。
それは「見た目」であって、でも単なる見た目のことではないのです。著者はこう言います。「人はアウトプットしか見ないし、アウトプットの裏側にあるものを見抜く。」
例えば、アップルの製品は「かっこいい」です。でもそのアウトプットには、そこに至るまでの想いや哲学、大いなる情熱が内包されていると著者は言います。だからこそ、その製品は魅力的なのだと。
ですから本書は、単に見た目を美しくする、デザインを考えるということではなく、「アウトプットに内包されるもの」、そのバックグラウンドを如何に充実させるのか、ということを述べたものだと言えるでしょう。
マーケティングや商品開発の場面でよく聞かれる「マズローの欲求段階説」も出てきます。その第五段階である「自己実現の欲求」をわかりやすく言い換えた言葉が、非常に著者の主張の本質を言い表している、そう感じました。
それはこういう言葉です。「この商品をもつことで、私は、自分らしい自分になれるかしら?」プロダクトデザインに限らず、私が日々おこなっている木の家づくりにも、ぴったりあてはまる一言ですね。
同じものでも、バックグラウンドを含むアウトプットが違えば、その魅力は違ってくる。旭山動物園といった事例を挙げつつ、単なる主張だけでなくその具体的な技法についても述べられているのが嬉しいところ。
ものづくりに関わるすべての人が意識をしていながら、でも往々にして「業界内常識、企業文化、自分の経験知」に阻まれてしまっている「良質なアウトプットづくり」。その方法論が載った一冊です。
ちなみに本書には、くまモンが「くまモンという名の黒い熊」である理由も書いてありますよ。それも本書に述べられた技法によって決まっているのが、読むとよくわかります。
自分のスイッチを入れてみたい全ての皆さまに、ご一読をお薦めいたします。