覇王という人間

2015.4.17|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 山口敏広

2015-04-09 10.19.03

『獅子の座  足利義満伝』   平岩弓枝 著   文春文庫

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

世阿弥の『花伝書』の口語訳を読み、そこからの興味で手にした一冊。世阿弥の同時代人でありパトロンとも言える、室町三代将軍を描いた歴史小説です。

 

足利義満と言えば、室町幕府の全盛期を築き、「北山文化」と呼ばれるような絢爛たる栄華を極めた人物、という風に学びました。また、昔のアニメ「一休さん」に出てくる「将軍さま」としても印象に残っていますね。

 

しかし、それ以上のことはあまり知りません。世阿弥がいた時代の文化を牽引した人物のことをもっと知ってみたいと思って入手したのでしたが、実は平岩弓枝の著作を読むのは初めてなんです。

 

現代人が読む歴史小説ですから、史実や人物についての「説明」がどうしても多くなります。その硬い感じに最初少しとっつきにくい気がしましたが、それに慣れてストーリーが動き出すと、その中にぐいぐいと引き込まれ始め、頁を繰る手が止まりません。

 

足利義満という傑物の生い立ちから、南北朝の争いにも翻弄される少年期。将軍となり、全ての権力を手にし、覇王となっていく人生と、その終わり。その力の源泉となるもの、その野望の裏にあるもの。それらが実にしっかりと描かれていて、まさに人間・足利義満を観る思いがしました。

 

もちろん「歴史小説」ですから、作者の視点で描かれた物語です。本当はどうだったのか、史実以上の人間像は誰にもわかりません。わからないからこそ様々な解釈があり得るし、だからこそ面白いのですね。

 

史実という出来事を生む人の感情を、丹念に史実をなぞる作業の中から浮かび上がらせ、それを線に繋いでいく。そこに作者の個性があらわれ、我々は歴史小説で、作者の解釈を読んでいるとも言えます。

 

これ、歴史小説好きの方にはあたり前のことでしょうね。でもこの本を読んで私が最も感動したのは、著者のその「解釈」の手腕に、描かれた足利義満像がもつ説得力に、だったんです。

 

史実というノンフィクションに解釈というフィクションを絡めて、歴史の闇の中にいるその人物を、ある一人の人間としてかたちにし、描く。そんな「歴史小説」というものの面白さを、じっくりと堪能できる一冊でした。