お家の事情

2017.8.27|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 KJWORKS

 

『大江戸御家相続 ~家を続けることはなぜ難しいか』   山本博文 著   朝日新書

 

 

 

「本を広げたかたちは、鳥のかたち。」

ご愛読、ありがとうございます。暮らしのプロデューサー、山口です。

 

 

 

以前に読んだ『江戸御留守居役の日記』と同じ著者による一冊、今度は江戸時代の「家督相続」についての論考です。前作は留守居役という藩と幕府との調停役の業務についてでしたが、今回は「家」の存続という更に重要な事態の物語。

 

 

 

日本の歴史の中で、例えば7世紀の「壬申の乱」は天智天皇の息子と弟との争いでした。平安時代末期(12世紀なかば)に起こった「保元の乱」は、後白河天皇と崇徳上皇の武力衝突でした。どちらも皇位継承権を巡る親族の争いです。

 

 

 

朝廷にもこうした天皇「家」の継承について親族間の紛争があった。その後の武家の台頭、戦国を経て徳川家康による天下統一後も、同様にそれぞれの「家」の継承をめぐっては、武力以外の様々な抗争あるいは駆け引きが展開されていた。

 

 

 

本書はそうした江戸時代の幕府と諸国のお家事情を赤裸々に述べたもの。最も家督相続が重要な「将軍家」をはじめとして、いわゆる御三家御三卿、そして地域の有力な各藩において、如何にして「お家存続」を続けたのかが描かれます。

 

 

 

その前に、関ヶ原の戦いで家康が勝てたことにも、ある「家督相続」の事情が絡んでいるという。それが本書の「序章」であり、今まで全くその視点がなかった私は大いに眼から鱗が落ちたのでした。その事情とは「関白秀次の失脚」です。

 

 

 

また、江戸の幕藩体制に入ってからは、参勤交代を含め、幕府が各藩の勢力弱体化を常に狙う状況になります。そんな中で各藩が「お家の存続」のために家督相続の際におこなった策略の数々には、実に涙ぐましいものがあったのですね。

 

 

 

その具体的内容については本書をご一読いただくしかありませんが、「家督相続」という切り口から江戸の歴史を見ると、通り一遍の解釈とはまた違った人間模様がそこに立ち現れてくる、本書はそうした面白さに満ちているようです。

 

 

 

そして、おそらく本書に頻出する単語のひとつは「夭逝」あるいは「早逝」、そして「養子」ではないでしょうか。江戸の昔、さほどに家督を次ぐべき世子の早死にが多かったこともわかる。そしてその度に養子が迎えられたことも。

 

 

 

今よりずっと養子縁組が頻繁だった江戸時代には、やはりこの「お家断絶を避ける」という考え方が強かったのでしょう。そして御三卿という次期将軍を生むためのお家柄は同時に、将軍の身内の養子先という機能があったこともわかる。

 

 

 

さらに本書が私の眼から鱗を落としたのは、次なる激動の時代である幕末には、そうした養子縁組の連鎖が生んだある事情が政変に大きな意味合いをもった、という事実です。それは「有力藩の藩主達が実の兄弟であった」ということ。

 

 

 

お家の存続という最大の課題をクリアすることが、実はそれぞれの家を超えた血のつながりを生み、政局激変の際にはそうした血の結びつきがものを言った。幕末の各藩の動向の裏付けを知るのに、この視点はなくてはならないそうです。

 

 

 

徳川十五代、その近縁の名家、そして江戸時代を通じてその政治的位置を変え続けた大名たち。各々の「お家の事情」が読めて、しかもそれが複雑に絡み合っていることが理解できる、歴史好きにはたまらない稀有な一冊だと感じました。