記録と記憶

2017.9.7|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 KJWORKS

 

『旅はゲストルーム』   浦一也 著    光文社知恵の森文庫

 

 

 

 

「本を広げたかたちは、鳥のかたち。」

ご愛読、ありがとうございます。暮らしのプロデューサー、山口です。

 

 

 

昨日、久しぶりに敷地と建物の現状を実測する作業にいそしんでいました。現場での実測結果を記入したものを「野帳(やちょう)」といいますが、久々の作業だったからか、野帳がとても読みにくい。腕が落ちたのを痛感しましたね。

 

 

 

そこで思い出したのが本書で、今日本棚から引っ張り出してきました。これは、設計者である著者が世界各地のホテルの客室を実測し、起こした手描き図面やスケッチを紹介しつつそのホテルの想い出を語る、というイラストエッセイです。

 

 

 

ホテルのレターペーパーに1/50というスケール(縮尺)で描かれ、絵の具で彩色までされた手描きの図面やスケッチはとても美しく、またわかりやすい。一応同業者である私にはとても勉強になりますが、一般の方でも楽しく読めそう。

 

 

 

この「実測・採寸」という作業は非常に地味で、かつ場合によってはとても「怪しい」と見られがちです。しかし著者いわく「それでもこれをしないと眠れない」と。まあ、言ってみれば職業病のひとつですね、建築屋にはありがちな。

 

 

 

でも、この建築空間を測って記録する作業は、ただ写真を撮っているよりも、何倍もその空間体験を自分の身体感覚として記憶に刻み込むことが出来ます。つくった絵を見るだけで、その旅の記憶が詳細に甦ると著者も言っていました。

 

 

 

人の五感の中で視覚は非常に優位なものですが、それだけではない。「手の記憶」というものがある。測り、それを絵に描くことは頭と眼と手を使っておこないますから、それらがしっかりと結びついた強い記憶として残るのでしょう。

 

 

 

とにかく本書で紹介される手描きの絵はどれも素晴らしい。もはや職人の域に達していると思います。「数をこなす」ことが徐々にそのスキルをアップさせる。まさに「継続は力なり」で、ますますその記憶への定着力もアップですね。

 

 

 

著者は実際にホテルや企業の迎賓館など「おもてなし」空間を多く設計しているようで、本書にズラッと並んだ69の部屋の絵は、どれも著者自身の志事に役立つ貴重な引出しなのでしょう。データの蓄積によってその比較も出来ますし。

 

 

 

本当に世界中多くの国々で泊まっておられますが、日本の宿は69の中に2つでした。そして面白いのは、映画に登場する架空のゲストルームがひとつ登場すること。『2001年宇宙の旅』の白い部屋と言えば、わかる人にはわかりますね。

 

 

 

本書は順に読み進める類のものではなく、どこを開いてもある旅が綴られ、ピックアップで楽しく読めます。積み重ねられた記録とそれにまつわる記憶が、「旅先での安らぎ」にも数多のバリエーションがあると教えてくれる一冊です。