ジャンルと着眼

2017.9.17|カテゴリー「読書つれづれ」|投稿者 KJWORKS

 

『城のなかの人』   星新一 著   角川文庫

 

 

 

「本を広げたかたちは、鳥のかたち。」

ご愛読、ありがとうございます。暮らしのプロデューサー、山口です。

 

 

 

星新一は私には思い出深い作家です。中学に入って、文字だけの本を自分で買って読みだしたその最初が、ショート・ショートというジャンルでした。超短編とも言うべきほんの数ページの作品は、物語の初心者にはちょうどよかった。

 

 

 

星新一、小松左京、筒井康隆といったSF作家のショート・ショートをしばらく読み漁りましたが、中でもこのジャンルの第一人者である星新一の作品には独特の雰囲気があり、中学生にもそのスマートな感覚が伝わってきたものでした。

 

 

 

その後は短編、長編を読みだし、筒井康隆にはまったこともあって、しばらく星新一作品とは疎遠に。そして大人になってから再読した時、まるで年代物のウイスキーのようなその「純度」にようやく気づいて驚いた記憶があるんです。

 

 

 

本書は、その星新一による時代小説集です。まさかそんな作品があるとは夢にも思わず、探しもしなかったことを大いに後悔しましたが、この歳になって歴史に興味をもちだした最近の私だからこそ今この本に出会えた、とも言えますね。

 

 

 

表題作『城のなかの人』、そして『春風のあげく』『正雪と弟子』『すずしい夏』『はんぱもの維新』、全5篇の作品集。読んでみて、やはり他のどの時代小説とも違う、あの独特の雰囲気がちゃんと感じられて、とても懐かしい気分に。

 

 

 

雰囲気とは、ひとつにはあの語り口。淡々と穏やかな表現、少し突き放したような距離感、しかし冷たくはなく暖かすぎもせず、という感じの文体で、そのさらりとした表現が生み出すスマート感は、やはり時代小説でも一貫していました。

 

 

 

そして何より、作品の骨子を決めていくその独自の「着眼」こそ星新一の真骨頂だと私は思います。ショート・ショートなどはその着眼のみの勝負とすら言えるでしょうし、本書もストーリー構築のための「眼の付け方」が素晴らしい。

 

 

 

『城のなかの人』、タイトルが既にそうですね。ずっと城の中に居て「美」に囲まれて育った男が主人公で、その特異な出生と育ちが彼の人生を悲劇へと導いてゆく。その育ちによる鷹揚さが文体と良く合い、かえって余韻を残します。

 

 

 

この主人公というのが、豊臣秀頼なんです。ははあ、豊臣の滅亡をそういう着眼点から描くのか。これぞまさに星新一ならではの物語世界であり、その効果が独自の文体によってさらに響きを大きくしていることも、随所で感じられる。

 

 

 

他の作品にも、それぞれに独自の着眼があると感じました。あたり前かもしれませんが、「こういう見方で書けば面白い」という作家の着眼や視点と、使う文体や話の進め方、それら全体がひとつとなって読者を魅了するのでしょう。

 

 

 

なので時代とかSFとか、そうしたジャンルは単に「題材」の違いなんですね。私としては没後20年にして新しい著者のお宝を発見した気分、またも今後「掘って」いくべき対象が増えて嬉しいやら困ったやら、というのが本音であります。