三年坂の至藝

2014.6.11|カテゴリー「日々の思い」|投稿者 山口敏広

2014-06-05 14.59.46

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

先日、平日にお休みをいただいた時、天気予報が雨だったので、何かインドアで楽しめるものがないか、と探していました。そして、以前から一度行きたかったところへ初訪問してきたんです。

 

冒頭の写真の場所がそれ。京都の三年坂(産寧坂)にある、「清水三年坂美術館」です。ここは、知る人ぞ知る「日本の伝統工芸を展示する美術館」なのですよ。

 

三年坂という場所自体が、伝統的建築の保存地区になっていることから、この小規模な美術館もその景観に配慮した木造建築になっています。瓦屋根に木の建具、パッと見は美術館という感じではありませんね。

 

アプローチの石張り、そして看板を覆い隠すように茂るヤマボウシの木もいいですね。ここのところヤマボウシはよくこのブログに出てきますが、ちょうどここでも美しい花を咲かせてくれていました。

 

今回この美術館を訪れたのは、その企画展に惹かれたから。「超細密根付展」というのものです。私もとても好きなのですが、「根付(ねつけ)」というものをご存じの方、どのくらいいらっしゃるでしょうか?

 

根付とは、印籠などの紐の先に付いた玉のようなもので、帯に挟んだ時の引っ掛かりになります。現代で言うと、携帯のストラップのような意味合いのものです。

 

この根付、帯に挟むという行為があるので、基本的には丸っこい形であればよいのですが、そこが日本人の芸の細かいところ。根付そのものに細かい彫刻をほどこし、身につける工芸品、愛玩物として進化を遂げました。

 

今回は、その小さな形の中にとんでもなく精緻な加工や彫り物が刻まれている、工芸品として価値の高い根付を集めて展示しているという、マニア垂涎の企画展だったというわけなんです。

 

その中でも、明治末期から昭和初期に活躍したという、森田藻己(もりたそうこ)という名人の作品を中心に展示替されていたのですが、いやもう、その細かさ、そして彫刻としての美しさに圧倒されてしまいました。

 

例えば、能の「茨木」を題材にしたこの根付。これがこの画像よりも小さい、ほんの5センチほどのものだと言ったら、皆さん信じられますでしょうか?

img_3

 

茨木童子が渡辺綱に腕を切り落とされ、それを綱の伯母に化けて取り戻した、という場面なのですが、どうやってこんなに精緻な細工ができるのか、凡人には想像もできません。神業とはこのことか、という感じです。

 

象牙や牛の角なども使われますが、藻己の作品は木が多いようです。木材をとんでもない細かさで削り、彫る。そしてそれを磨き上げ、着色して、また磨き上げていくという、まさに気の遠くなるような工程ですね。

 

森田藻己は、彫刻刀を200種類使い分けていたそうです。また、根付細工師の修行は、最初の一年は「きちんとあぐらをかく」ことだけに費やされるのだそうです。なんとも凄い世界ではありませんか。

 

そんな神業を駆使した小さな工藝作品をじっくり鑑賞した後は、もう眼力を使い果たして、ふらふらになってしまいました。近くの茶店でお抹茶をいただいて、しばしボケーッと余韻に浸っていた次第。

 

常設展示でも、木工、彫金、象嵌や蒔絵など、日本の素晴らしい伝統工芸がたくさん並んでいます。でも、とにかく見るのに眼が疲れるので、時間がかかるんですね。

 

ほんの小さな美術館です。でもその内包する作品世界はまさに膨大。雨の日、インドアでじっくりと豊かな時間を過ごすには、とても良い場所だと思いますよ。三年坂自体も、観光客は多いですが、よいところですし。

 

「幕末・明治の超細密根付展」は8月17日まで。ご興味がおありの方は、是非時間に余裕をもって鑑賞に臨まれることをおすすめいたします。