巨木の呼ぶ声
ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。
今日と明日、くらしの杜では「無垢の素材市」が開催されています。年に4回だけ、KJWORKSが在庫としてもっている無垢の一枚板を、たくさん展示販売する催しなんですよ。
私は今日の午前中、その素材市の販売スタッフとして会場にいました。何組ものお客さまがご来場され、滅多に見ることのできない大きな板を見比べておられ、そして購入された方も。ありがとうございます。
大きな無垢の板材に囲まれて時間を過ごしていると、この板が樹木として生きていた時には、どんな雄々しい姿だったんだろうか、そんなことを考えます。どの板も、私よりもずっとずっと歳上の、大先輩ですから。
例えば冒頭の写真の板。楡(ニレ)材の幅90センチ、長さ250センチもある、大きなもの。その木目の躍動感たるや、もう素晴らしいの一言です。入っている割れの表情すらも美しく思えるほどの、存在感ある板です。
その力強さと向き合いつつ、どうしてもこんなことを考えてしまいます。この永い永い時間を生きてきた楡の木は、板となってどのように活かしてあげれば、製材されるまでのこの樹の永い時間を無駄にしないで済むのか。
そう考えながらこの楡の板に手をやり、しばらく撫でさすっていると、いつの間にか自分の頭のなかがスライドして、こんな思考になっていることに気づきました。「KJWORKS阪神の新しい事務所に、この木をどう活かそうか」と。
KJWORKS阪神事務所の候補地は、もうほぼ決まっています。その空間の中に、この木目の流れをどう活かすか、どう使うか、そしてこの割れのどこに「千切り」を入れてアクセントをつけるか。板は空間の中でどの高さに位置するのがいいか、なんて。
そう、いつの間にか、自分がこの板を新しい事務所で使うことを前提とした検討の頭になってしまっていたんですね。傍から見ると、何やらじっと板を見つめて、ものも言わずに考えこんでいる。ちょっと危ないです(笑)。販売スタッフとしてはよろしくありません。すいません。
自分でも途中でそれに気づいてびっくりしましたが、それほどに魅力的な板である、ということなのでしょう。そして、木の家を通じて「ものづくり」を続けてきた人間である私に、何かが届いたのかもしれません。
写真の楡の板のバックに並んでいる板たちも、どれもとても立派な、素晴らしい巨木たちです。板材として扱われていても、その生きてきた永い時間が、風格として滲み出ていますね。
そんな巨木たちを、板となってからも永く活かしてあげないと。おかしげな使い方をしては、元の巨木に申し訳が立たない。そんなことを強く思います。何と言っても、木の命を奪って使うものですから。
その想いはすなわち、積み重なった時間という価値に敬意を払うということ、ですよね。「永く住み続けられる木の家」をつくる者にとって、この感覚は絶対に失ってはならないものだと、今日も改めて思った次第です。
もう一度、この楡の巨木の呼ぶ声に耳を傾けて、私が新しくつくる事務所にその落ち着く先があるのか、しばしイメージを巡らせてみることにしましょう。
そしてもし、その答えが見つかったなら、また皆さんにご報告いたします。新しい事務所のお披露目と共に。