新しくて古い店

2013.12.16|カテゴリー「日々の思い」|投稿者 山口敏広

2013-09-04 11.16.13

 

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

今日は冒頭から、何やら古びたお店の店内の写真が登場しました。私の好きな「古い木の店」をご紹介しよう、という目論見の一文です。しばしおつきあい下さいませ。

 

ここは池田市のうどん屋さん「吾妻(あづま)」の店内です。来年夏からは阪神担当ですが、いま私が担当させていただいている木想家は池田市内に二軒あるので、よくここへ立ち寄るというわけなんです。

 

このお店、実はかなりの老舗で、大阪で一番古いうどん屋とも言われます。その創業は元治元年(1864年)と言いますから、150年近い歴史をもっていることになりますね。1864年と言えば、幕末のころ。例えば新撰組の「池田屋騒動」があった年ですよ。

 

店内に入ると、その歴史の積み重なりがそこここに感じられます。柱や梁、壁の古び方、店内の装飾や壁に張られた鏡まで、かなりレトロ感が溢れる空間なんです。渋いのです。

 

木のテーブルも、「テーブル」と呼んでいいのかどうか、という古さで、しかもすごく小さいんです。店がいっぱいの時は、お隣さんお向かいさんにかなり気を使う感じ。それがまたいいんですね(笑)。

 

ここ吾妻の名物と言えば「ささめうどん」です。細いうどんに、あんかけ出汁。刻み揚げ、蒲鉾、塩昆布、おろし生姜、すり胡麻、そして柚子の皮が一枚入っていて、その熱々の出汁にまぜて食べるのがたまりません。

 

このうどんには「腰」がほとんどありません。これを考案したのは先代だそうですが、昭和40年代後半に腰のある「讃岐うどん」が大阪に浸透し始めたころ、それに対抗してつくられたものだそうですね。

 

当初は「吾妻うどん」と言ったそうですが、あるご婦人のご提案で「ささめうどん」と改名することになりました。そのご婦人は、かの文豪、谷崎潤一郎の奥さま、松子さんだったそうです。それもあってこの名とともにその味が知られるようになったとか。

 

私も訪れるたび、その熱々のささめうどんに舌鼓を打ちます。腰のない大阪うどんもいいものですよ。その味と、この店内の歴史ある古びた感じが好きなのですね。

 

と、ここまで読むと、さぞやこの店は永くその場所に建っているのだろうなあ、とお思いになるでしょう?しかし実際はさにあらず。この店は、ビルの一階にあるのですよ。こんな感じです。

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ここで「なあんだ」と言うなかれ。この店、元々あった建物の材料を全てそのまま再利用して、ビルの一階に全く同じものをつくっているんです。ですから、店内の雰囲気は、往時のままなんですね。

 

私もうどんを食べていて、ここがビルの中だとはとても思えません。それほどによく出来ている。谷崎婦人が食べたのと同じ店で同じメニューを食べている。そう自然に思えますね。

 

いま、古民家再生という言葉をよく聞きます。KJWORKSでも何軒か古民家をリフォームで生まれ変わらせてきました。通常のリフォームや新築とはまた少し違ったノウハウが要求される、とてもやり甲斐ある志事です。しかし、この吾妻でささめうどんを食べていると、このような「古店舗再生」というのも面白いなあ、と思います。

 

谷崎夫人の例もあるように、お店にも古くなると「想い出」が積み重なっていきます。建物の構造劣化などの理由でそれが損なわれそうな時、この吾妻のような想い出の引き継ぎ方もあるのですね。

 

営々と繋がってきた「店」の命をさらに延ばすという点で、とても大きな意義があるのではないでしょうか。