春にめくる貝

2015.4.1|カテゴリー「日々の思い」|投稿者 山口敏広

201504-1

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

今日から4月。新年度ですね。新しい出会い、始まりの季節です。先月描いた「住まいの学校」チラシも、春の訪れに合わせてお客さまの元へ届いたことでしょう。

 

4月号のイラストを何にしようか、また色々と考えましたが、今回はこの頃に旬を迎え、またその形の意味からもこの季節の節句に使われたものを描いてみました。蛤ですね。

 

蛤と言っても食材としてのものではなくて、日本に昔からある遊びの道具として使われた貝殻を。内側には雅な絵が描いてあります。「貝合わせ」という遊び、皆さんはご存知でしょうか?その昔は「貝覆い」と言ったのだそうですが。

 

蛤に限らず二枚貝は全て、自分自身のペア以外とは貝殻の形が違います。違うものをもってきても、ぴったりと合わさらない。これを使って、トランプの「神経衰弱」のように遊ぶのが「貝合わせ」。

 

貝殻のペアを、「地貝」と「出貝」に分け、地貝を伏せて並べます。そこに「出役」がひとつの出貝を伏せて出す。参加者はずらり並んだ地貝の中から、出貝と同じ形と模様のものを探すのです。

 

これ、というものを見つけたら、地貝をめくり、その二つを合わせてみる。貝殻の内側には金箔の上に極彩色の絵が、それもちょうどペアになるように描かれていて、貝殻の形も、絵柄も合えば正解、というわけ。

 

古の姫君たちが遊んだというこの「貝合わせ」、いまは雛祭りの時に思い出されたように採り上げられたりしています。また、雛祭りには蛤の吸い物、というのも今に伝わっています。

 

しかし、雛祭りの大元は「上巳の節句」であり、これは旧暦の弥生の三日です。それは今の暦で言うと4月。そして春に旬を迎えた蛤は、その「二枚がぴたりと合わさる」という意味からも、一生一人の人と添い遂げるという女性の美徳と貞節をあらわす縁起ものとなり、節句に使われたのでしょうね。

 

今回はそんなことを思い浮かべながら、平安の昔を偲びつつ、今月の絵に貝合わせの蛤を描いてみました。そして左上には枝垂れ桜を。貝合わせの貝殻の中にも、同じく枝垂れ桜が見えていますよ。

 

上巳の節句は、元々はいまの時期のもの。現代の3月3日では、その「桃の節句」の意味もうまく伝わりませんね。このチラシの絵も、桜とその絵が描かれた貝合わせの蛤とで、本来の日本人がもつ季節感にピタリとはまっている。

 

私はそう思いますし、そんな感覚がこの絵から皆さんに伝わったなら、とても嬉しいことです。