用の美

2013.8.27|カテゴリー「日々の思い」|投稿者 山口敏広

『台所道具の楽しみ』  平松洋子著  新潮社とんぼの本

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

私も、時々ですが、料理をすることがあります。まあ、料理本や「cookpad」のレシピを見ながら、そのとおりにやるだけなんですが。でも、時々でも続けていると段々慣れてくるし、面白くもなってきますね。

 

素人なりに何回もつくっていると、段々「調理器具」についても興味が出てきます。お鍋にせよフライパンにせよ、調理でうまくいかないことがあると、こういう風にならない器具って無いのかなあ?という風に。とりあえず自分の腕は置いておいて、モノのことも、知りたくなるんですよね。

 

本書は、そんな時にとても役立つ一冊です。「長く使える、良い台所道具」とはどんなものなのか、道具がつくられる風景、調理の風景の写真などもたくさんつかって、解説されています。

 

「基本の台所道具」として載っているのは、まな板、包丁、フライパン(鉄、フッ素樹脂加工)、鍋(アルミ、ステンレス多層構造、鋳物ホーロー)。どのようにつくられ、どのような特徴があり、どんな料理に向いているか、上手な使い方など、その魅力が、たっぷりと。

 

見ていてどんどん興味が湧いてきますし、「よし、自分もやってみよう」という気にさせられます。そして、そのような良い道具に出会える場所、上手なお手入れ法などの紹介もあったりして、とても面白い。

 

そして、そういう実用的な話とは別に、私はこの本で「よくできた道具は非常に美しい」ということを再確認しました。包丁、鍋、おたま、しゃもじ、ざる、挙げていけば数限りなくある調理器具ですが、長く使える良いものは、その姿が本当に美しいのですね。

 

その調理上の用途を最大限に満足するために、最適な材料、最適な大きさ、最適な形は一体どんなものなのか。その姿形には、それを生み出したつくり手の想いと、なんども失敗を繰り返した試行錯誤の日々が、「力」となって宿っているように思えます。

 

本書で「調理器具」と言わず、「台所道具」という呼称が使われているのは、単純でありながら完成された「かたち」を生み出したつくり手への敬意が込められている、私にはそんな風に感じられました。

 

こういう美しさを「用の美」というのですね。かの柳宗悦が日本各地の「民藝」に見たものとは、まさにこの種の巧まざる美の世界だったのではないでしょうか。

 

実用的な道具の学びもあり、その美しい姿の写真集としての側面もあり、そしてそこからは、「ものづくりの歓び」さえも伝わってくる。

 

「食」という、日々の暮らしの根幹に関わるものであるだけに、飽きることなく何度でも愉しめる、滋味あふれる素敵な一冊なのです。