菌がみちびくもの

2013.12.3|カテゴリー「日々の思い」|投稿者 山口敏広

2013-12-03 09.35.58

 

『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』  渡邉 格 著  講談社

 

ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。

 

先日、岡山県の真庭市というところへ、バイオマスと新しい集成材開発で社会貢献しておられる会社「銘建工業」さんの見学に行きましたが、ひょんなことから、その近くにあるパン屋さんが書いた本のことを知りました。

 

「パン屋 タルマーリー」は、自然栽培の小麦と天然の菌をつかってパンづくりをしているお店。福島の原発事故のあと、真庭市勝山町へと移転し、営業をしておられます。本書は、著者が自らの半生を語り、そしてなぜそんな「自然とともにある」パンづくりに至ったかを語る、そんな本です。

 

私は「腐る経済」という言葉に興味を覚えて本書を手にしたのでしたが、それは、著者が自然なパンづくりへと至る過程で自らの身体で理解したこと、パンづくりに欠かせない「菌」や「発酵」といったものの大きな力に教えられるように、辿り着いた理論、言葉なんですね。

 

「腐る経済」の反対語として、「腐らないお金」「腐らない経済」という言葉が本書には頻出します。それは今の社会の経済構造を表していて、その矛盾を解決する方法こそ、自分がやっているパン屋のようなことだ、著者はそう主張しています。

 

私なりに理解するに、それは経済用語で言うところの「実物経済」と「マネー経済」というものに近い概念なのでしょう。実物経済とは「物を買ったり、サービスを受けたりするときに行うお金のやりとり」。普通のお金の支払いのことですね。

 

それに対してマネー経済とは、「お金をふやすことを目的に、お金を商品とみなして売り買いするときのお金のやりとり」のこと。21世紀の現代、全世界のお金の流れの9割以上はマネー経済が占めていると言われます。

 

本来の物々交換の代わりをする「お金」であるのが実物経済。しかし、その規模をはるかに上回って膨れ上がったマネー経済によって、経済社会の実像が歪められ、お金は本来の流通量を大きく逸脱しました。そして、バブルを呼び、次にリーマンショックなどの破綻を呼びました。

 

そんな、「自然の摂理から逸脱し、膨張し、歪曲されたお金の動き」のことを、著者は「腐らない経済」と言い表している。そしてそこからの軌道修正を実践している。私にはそう感じられた次第。

 

本書には、そんな主張の著者がやっている「パン屋 タルマーリー」の写真も掲載され、地域や自然とともにあるその日々の活動、その協力者たちも描かれています。パンづくりを通じておこなわれる経済活動、そこに迷いは感じられません。

 

「菌」にみちびかれて到達した、著者にとっての「腐る経済」とは何か。安全な「食」を求める方、ブラックボックス化した物流や製造に疑問を覚える方には、是非ご一読いただきたい一冊です。