記憶のなかの味わい
〈久しぶりに訪れた神戸のレトロ建築。懐かしい味わいも空間の雰囲気も、大切に残したいものです。〉
ご愛読、ありがとうございます。KJWORKS・木の家のくらしプロデューサー、山口です。
昨日のことになりますが、親しくしてくださる姫路のリーチホームズさんと、ランチをご一緒する時間がとれました。久しぶりにお会いするので、ミーティングを兼ねての食事の時間、というわけです。
どこへ行こうか、という話の中で、前田社長が「山口さん、オムライスお好きですか?御影にいい店があるんですが」とおっしゃる。オムライス、無論嫌いというわけではないのですが、おっさんは普段滅多に口にしないメニューであります(笑)。
でも、それが故に、前田さんがどんなところへ連れて行ってくださるのか、逆に楽しみになってきたんです。是非お願いします、ということで、着いたところが、冒頭の建物。ここはレストランではなく、御影の公会堂ですね。
ここの地下に食堂があることは、私も知っていました。そして、オムライスが有名だということも、聞いたことがある気がします。でも、まさか今日ここでランチになるとは。
御影公会堂は、昭和8年築です。戦争と、そして阪神大震災をも耐えぬいて80年以上建っている、神戸の名建築ですね。大学で建築史を専攻した私には、馴染みある建物です。
ちょっと難しいことを言うと、様式建築からモダニズムへの移行期にあって、その両方のデザイン要素をもつ建物だと言えます。外観はどこか「船」を思わせる形。ノスタルジーを掻き立てられるようですね。
そして、久しぶりに入った、地下の「御影公会堂食堂」。ここもまたレトロな雰囲気が濃密にただよっていて、なんとも落ち着く。こんな感じです。
ここで、前田社長、スタッフ高橋さんと共に、3人でオムライスをいただきました。いや、久しぶりに食べたなあ、オムライス。きっとこの食堂で、昔から変わらず提供されてきた味なのでしょうね。
私は神戸育ちではありませんが、食べながらふと、子供の頃にこういう感じの場所で、こういう味を口にしたような気がしました。オムライスか、あるいはお子様ランチか。ケチャップで味がついたご飯の味。
その時はそれがどこだったのか、思い出せなかったんです。でも、お二人とお別れして、事務所に帰ってから、不意に記憶がつながりました。あれは、梅田や。阪急百貨店にあった大食堂やわ、きっと。
細部は違うのですが、たしかこういう感じのシャンデリアがあったんです。子供の頃、その豪華な雰囲気にちょっとドキドキしながら、お出掛けの時だけの美味しいランチ。そんな、両親との特別な日の記憶。
永く生き続ける建物は、なぜ愛されるのか。それはやはり、周囲の人々の幼少期からの記憶に、刻み込まれているからだと思います。そこで過ごした楽しい時間、両親との会話。人はそんなノスタルジーからも安らぎを得る生き物なんですね。
この御影公会堂食堂の空間も、そしてオムライスの味も、私にそんな懐かしい時間を想起させ、そして癒してくれました。その記憶の中の味わいを反芻しつつ、建築のもつそんな力を改めて感じられた時間だったんです。