百科事典という本

2012.3.23|カテゴリー「日々の思い」|投稿者 山口敏広

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ご愛読、ありがとうございます。

 

今日は、「ある時代の終わり」を感じさせられた出来事について、書きます。

 

写真は、ご存知「ブリタニカ百科事典」です。私たちの世代が子供の頃、このような「百科事典」がリビングにずらりと並べられていた、という家庭は多かったと思います。それはいわば「知識の象徴」だったように思います。

 

しかし、いま小さいお子さんがおられるようなご家庭ではどうでしょう。おそらく、ほとんどそのようなご家庭は、皆無に近いのではないでしょうか。そしてそのような状況を受け、「ブリタニカ百科事典(Encyclopaedia Britannica)」は、2010年版を最後に、ついに出版が打ち切られてしまいました。

 

書籍の一時代を築いたと言えるこの百科事典は、1768年に誕生したそうです。当時はまだまだ書籍を活用できる人の数は限られ、このような多目的な参考書籍というものはほとんどなかった時代だったとか。そんな中で、「ブリタニカ百科事典 初版 全3巻」は画期的な印刷物だったのでしょうね。

 

そして、年々その記載内容は増加の一途を辿り、最新版では全32巻となっていました。この最新版、2010年版は、なんとわずか8000セットしか売れていないそうです。全世界でですよ。1990年版では12万部を販売したといいますから、激減といっていい状況です。残念ですが、廃版も仕方ないのでしょうね、事業としては。

 

では、その理由は何か。おそらく、大きく2つの原因がありそうです。

 

まずひとつめは、テレビですね。この「情報を一方的に映像で流してくる機械」の登場で、リビングの主役の座、人々が見るものが、これで一気に変わりました。

 

そしてもうひとつは、インターネットでしょう。今度はパソコンという機械を使って「情報を自分で探しに行く」ことができるようになったんです。それも「検索」という方法で。

 

何冊もある事典の中から該当の項目を探すよりもずっと簡単に、WEBという大海から、必要な魚だけを釣り上げることが可能になった。今やあたり前になっているこのこと、しかしその凄まじいまでの「変革の力」が、百科事典という書籍の存在理由を失わせる方向へはたらいた。そう言えると思います。

 

そして今、ほぼ全ての家のリビングに百科事典の居場所は、なくなってしまったのでしょう。その代わりにそこに鎮座しているのは、テレビであり、ネットに繋がったパソコンなのですね。

 

しかし、私が思うに、この「百科事典の死」という出来事が、即「書籍の死」ではありえない。「調べる」と「読む」はまったくその人間にとっての意味が違うからです。

 

昔、家にあった百科事典を、読み物のように順にめくって、「こんなことも載っている」と楽しんだご経験はありませんか?私はそれが好きでした。調べものの用事以上に、そんなことにこの書物を使っていたように思います。

 

そのような「読む」楽しみを百科事典に見出した経験のある方には、この書籍版の絶版の知らせは、とても残念に感じられるはずです。「読む」ことには「偶然の出会い」があり、その魅力はとても素晴らしいからですね。

 

自分が調べた項目の、同じページに載っている別の知恵、知識。その出会いから広がる別の世界。WEB検索でそれが不可能だとは言いませんが、そういう「出会いの楽しみ」の提供については、やはり書籍に軍配があがると思います。

 

大げさなまでにでっかい、まさに「知識の海」を表したその外見。ブリタニカ百科事典は、もうかつてのような威信をもてなくなり、存在をやめてしまいます。

 

でも、このニュースを知って、「実家のブリタニカをもう一度読んでみよう」と考える私のような人間がいるのも、また事実です。本の世界からブリタニカという重鎮が消えること、私にはやはり、無念でならないのです。