権現様の洋時計

2012.5.22|カテゴリー「日々の思い」|投稿者 山口敏広

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ご愛読、ありがとうございます。

 

ご覧の洋時計、何とも歴史を感じさせる姿です。そして右側は、何やらそれを分解してチェックしている、まるで「お宝鑑定団」のようなシーンですね。

 

この時計、実は徳川家康公のもの。そして鑑定の結果、世界でひとつと言ってもよいその素晴らしい保存状態、その貴重さが認められたという逸品なのです。

 

もちろん、家康公の時代に国内ではこのような時計はありません。海外からの贈り物だったのです。

 

時は1609年、徳川幕府が始まった頃です。千葉県沖で難破した、スペインの船がありました。乗組員は救助され、家康公はその乗組員たちを厚くもてなしたのだそうです。そのお礼にと、1911年に、時のスペイン国王、フェリペ3世が家康公へ贈ったのが、この洋時計なのだとか。

 

当時、このような精巧な時計はまさに「超ハイテク製品」であり、国王などごく限られた身分の人しか所有することができなかったのだといいます。

 

そしてその4年後、家康公は亡くなり、この時計は東照宮に奉納されて、ずっと守られてきたのです。そして今回、2015年に没後400年を迎えるのを機に、東照宮が大英博物館にこの洋時計の鑑定を依頼した、というわけなのですね。

 

鑑定をおこなったのは、同博物館時計部門の最高責任者、デビッド・トンプソン氏です。鑑定の結果、この時計は1581年、スペインのマドリードで製作されたものとわかりました。つくったのは国王のお抱え時計職人、ハンス・デ・エバロ。彼はフランドル地方にその出自をもつ職人だったそうです。

 

この時代に同地方でつくられた時計は、現在世界に20個ほどしか残っていないのだそうで、その中でもこの家康公の時計は、とにかくその保存状態が素晴らしいという鑑定結果でした。

 

内部の部品が、99%製造当時のもののまま残っている。さらに、革張りの収納箱もそのまま保存されている。ここまでの保存状態を維持しているものは世界でこの時計だけだといい、氏曰く「大英博物館に展示したいほど」の希少価値だそうです。すごいですね。

 

私が思うに、この保存状態の良さは、徳川幕府による家康公の神格化と、無関係ではないでしょう。家康は「権現様」と呼ばれて、神様になり、のちの将軍たちから崇められてきたのです。その神を祀ったのが、東照宮です。

 

その権現様がお使いになっていた時計は、要するに時計という実用品として使われることは、その後一切なかったのでしょうね。東照宮に奉納され、宝物としての完璧なまでの保管がなされたことが、結局は部品交換もなく、製造当時のままの姿を残すことにつながったのだと思います。

 

その理由はどうあれ、17世紀の素晴らしい「ハイテク技術」と最高の装飾技術が、最高の形で今に残ったというのは、本当に喜ぶべきことですね。私も一度見てみたいです。

 

なお、今もこの時計は重要文化財なのですが、今回の鑑定結果をふまえ、国宝指定の申請が検討されるということです。